“できない”という言葉を使わない木型師を目指して|神戸レザークロス
神戸レザークロスのモデリスト(木型師)・町田聡平さん
ワールドグループの個性豊かな仲間を紹介する「WORLD PEOPLE」より神戸レザークロスのモデリスト (木型師)・町田聡平さんのインタビューをお届けします。(2021年11月15日の記事から)
革靴に魅了され、靴の専門学校へ
_そもそも木型師というのは、どのような職業なのでしょうか?
木型師は、簡単に言うと靴のデザインの原型をつくる仕事です。木製の足型を削ったり、パテを塗ったりして形成し、原型を作っています。
_木型師を志したのは、いつ頃ですか?
大学生の頃です。高校を卒業後、仙台の大学に進学したんですが、オーケストラのサークルに入っていました。オーケストラということでスーツを着る機会が多く、必然とドレスシューズを履くことも多かったんです。そこから徐々に靴に興味を持ち始め、自分で靴を作りたいと思うようになり、大学を中退し、靴の専門学校へ入学しました。
_大学を退学されたのは何年生の時ですか?
大学4年の1月です(笑)。行きたかった専門学校が、入学前に1月から始まる体験コースを受講しなければ入れないということだったので、中退しました。その学校で靴について学んだ後、系列のビスポークシューズブランドに就職し、木型師になりました。その会社では講師として木型について教えたりもして、およそ10年勤めました。
正確に採寸しても、ジャストサイズの靴を作れるとは限りません
_神戸レザークロスに就職されたのは、その後ですか?
この会社へ入る前、1年間だけ職業訓練学校に入校しました。3D CAD(製品の設計図を描くための3次元製図ツール)とCAM(3D CADで制作した図面をもとに、工作機械のプログラムを作成するシステム)を学びたかったので。
_現在は、どういった靴の木型を作られているのですか?
主に東京にある靴のメーカーさんから依頼され、靴の木型とヒールやソールの原型の制作をしています。 木型は主に既製品向けですが、 形はスニーカーからヒールなど靴種は問いません。 以前、下駄の木型も依頼されたこともあります。 あと名前は出せませんが、 有名なコレクションブランドの靴も手掛けています。 ヒールやソールの原型制作も木型と同じくらいの数を制作しているので、割合的には半々くらいです。 またヒールのサンプルは、 3D CADで設計し3Dプリンタで製作しています。 これまでのやり方ですと金型で製作する必要があったのですが、 超少量の靴については3Dプリントで製作した方が、 納期短縮やコスト削減が可能となります。
木型を作り続けたことで、節が太くなったという町田さんの指。 「いつの間にか握力も60kgに なってました(笑)」
_一人によって足の形は違うと思うんですが、木型を作る上で難しいことはありますか?
そもそも人の足って左右でも異なりますよね。 そして、 感覚も人それぞれで。例えばですが、 ビスポークの靴を作るために、その人の足を完璧の採寸しても、ジャストサイズの靴を作ることって難しいんです。作る際に色々な話をすることで、その方の好みや感覚を把握し、微調整していきます。なので、コミュニケーションって本当に大事なんですよね。 また既製靴の木型を作る際も、難しさはあります。 経験がないとできない仕事だと思います。
_1ヵ月に作る木型の数はどのくらいですか?
その時々で異なりますが、 1ヵ月に多い時でも10型くらいですね。 1型を作るのに、 だいたい8時間くらいかかってます。
この日の足もとはトリッカーズのウイングチップブーツ。「ブーツは好きで自作も含め色々所有してますが。 ちなみにスニーカーは1足しか持っていません」
表現の幅をもっと広げたい
_では最後に今後の夢などあれば教えてください。
できるだけ手作業を減らし、コンピュータで作る作業が増やしていければと思います。 決して 手抜きをしたいというわけでなく、やはりコンピュータで作ると修正が容易なんですが、手作業だと command+Z (やり直し) ができないので、逆に言うと、コンピュータにしかできないことをもっと取り入れたいです。 もちろん手作業になると思いますけど。 そのためにも 3D CADを極めていきたいと思っています。そうすることで表現の幅を広げられますから。できる限り「できない」という言葉を使わないようになれればと思っています。
プロフィール)
まちだそうへい/神奈川県藤沢市出身。 手製靴の専門学校を卒業後、系列のビスポークシューズブランドに就職。 木型師兼講師として活躍後、 職業訓練学校を経て、 2016年に神戸レザークロスへ。趣味はハンドクラフト。 「靴だけでなく、 自宅の棚 やダイニングテーブルも自作です」